Learning Organizationを組織の礎に(その1)
過去の経験をセオリーとして使えない時代
世界の人口動態の変化、先進国市場の成熟化、国境を越えるテクノロジーの進化、保護主義とグローバリゼーションのせめぎ合い等、変化が激しく先の読みづらい時代になっている。国の概念も、物理的な国境、民族、企業の本籍等、どの視点で捉えるのかにより概念が異なる時代になっている。
右肩上がりの成長を前提としていた時代には、事業環境に影響を及ぼすパラメーターもシンプルなものであり、かつ急変動をもたらすことも少なかった。
これからの時代、自国において過去からのやり方を踏襲していても思ったような成果をあげられず、また自国での成功体験を持って発展途上国に進出しても、テクノロジーの進化が想定を超越し、思ったような成果を創出できないことが多々ある。すなわち今のトップマネジメント層が持っている体験はセオリーとして役に立たない時代になっていると言える。
「Learning Organization(学習する組織)」が求められる背景
企業を取り巻く世界の急激な変化は、ビジネスサイクルの急速な短縮と知識や技術の革新スピードの高まりと経営環境の複雑化を招いた。そのような時代においては、これまでの考え方や経営手法では対応することが困難であり、米国では、世界の先端企業とMIT、ハーバード大学などが協力して数々の調査研究と企業内での実践的な試みを行い、1990年代の初めに「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」という概念が提唱された。
- ビジネスサイクルの短縮化
ビジネスサイクルの急速な短縮は企業やそこで働く人々に大きな影響をもたらした。次々と画期的な技術やサービスが登場する中で、流行り廃れも速いため、企業の迅速な商品・サービス開発が求められる。
- 知識・技術の更新速度の高まり
ビジネスサイクルの急速な短縮化により、知識・技術の革新速度も高まった。1980年代には上司から部下へ知識の伝達が困難な時代が訪れ、既に1990年代にはマニュアルによる知識や技術の伝達が難しい状況に陥った。
また、2000年代以降に、急速に普及したインターネットやモバイル型高機能デバイスの広まりにより、従来の伝承よりもいち早く情報を取得できる環境が実現され、知識や技術の更新・取得スピードに拍車がかかることとなった。
- グローバリゼーションによる環境の変化
経済や地域情勢が国境を越えて、あらゆる影響を及ぼすようになったことによりビジネスに不可欠な資源であったモノやカネから、「知識」や「知見」「知恵」が重視される時代へと移行している。
このように「知識経済」が主流となる中で、最新の環境に身を置いているかどうかが、ビジネスの成否の鍵を握っている。
これらの世界経済の急激な変化(ビジネスサイクルの短縮化と知識・技術の革新スピードの高まり)とグローバリゼーションによる環境の変化により、トップマネジメントを頂点とした従来型の経営システムでは企業運営が難しくなった。
これらの複雑化した情勢の中で、迅速かつ柔軟な意思決定を行うためには、現場の人たちが自ら情報や状況を把握・学習し、変化に対応していく組織作りが重要となる。
「Learning Organization(学習する組織)」とは何か?
これまでのように組織を「機械システム」として見なすのではなく、「生命システム」として捉え、結果を生み出さない思考や行動を見つめ直すことがLearning Organizationの根底にある。
そして自律し学び続ける組織には3つの力が必要だとされている。
一つめは「志を育成する力」である。何を行うにおいてもまずは志が重要である。Learning OrganizationにおけるFifth Discipline(別のコラムにて解説)のうち、「パーソナルマスタリー(自己熟達)」と「共有ビジョン」がここに該当する。
二つめは「共創的に対話する力」である。志を同じくするまさに“同士”が、目的に向かうために知恵を擦り合わせ、絶対解の無い解を見出し行動に移すために必要な力である。Fifth Disciplineのうち「メンタルモデル」と「チーム学習」が該当する。
三つめは「複雑性を把握・理解する力」である。過去のセオリーが通用しない時代には、表層的な事象に惑わされず、エコシステム(生態系)を俯瞰しながらコンテクスト(文脈)を読み取るという力が必要になる。ここはFifth Disciplineの「システム思考」が該当する。
Fifth Disciplineそれぞれに関しては別のコラムにて解説するが、組織としてこの3つの力の向上が持続的な組織創り、チーム創りの要諦として捉えたい。